4月5日(月) 久美浜(曇り後晴れ)
諦めの良い釣り師になってしまっているので、何とか気分を変えようと思った。そして久しぶりに久美浜に行こうと思った。十年ほど前はワクワクして4時間ほどかけて通った釣り場だった。ただ、長竿ではなく、短竿で釣りたかったので渡船屋さんも代えた。西中渡船さんだとつい長竿の魅力に負けてしまうので、今回はいざわ渡船さんにお世話になった。当日はやはり気持ちが高ぶったのか2時に起きてしまい、2時45分頃自宅を出発した。途中、黒鯛釣り具店でボケ30、オキアミ、シラサ半杯、団子(小)を購入して、一路久美浜に向かった。最近ナビがおかしくなってしまい、ある時は淡路島、またある時は福井県、そしてその次の日は大阪と全くでたらめになっている。当日は舞鶴沖合の日本海上を走っていることになっていたので話しにならない。道を覚えているのか不安だったが、無事但東町を抜けての最短ルートで5時半ごろ到着した。
船頭さんは丁寧な方で、もう一人の釣り人と6時に出船した。牡蠣を頼むと途中で牡蠣筏に寄って、ロープ2本分の牡蠣を引き上げてくれた。牡蠣ロープは舞鶴ほど長くないので、量的には舞鶴の1本分より少ないが、撒き餌と刺し餌に使っても十分な量だった。サービスだそうだ。これなら団子もいらなかったし、餌ももっと少なくて良かったと思った。もう一人の釣り人はこの筏のカセに降りられた。ここは西中渡船の筏群の先にある筏群で宮崎沖のカセらしい。私は西中渡船では味わえないロケーションが良かったので、岬の反対側の六本裏のカセに乗せてもらった。誰もいない。貸し切り状態だった。
牡蠣ロープがないのが気になるが、これだけ広大な筏群があるのだから、チヌがいないわけはない。不安と期待が混じっての、牡蠣での第1投を投下した。どの釣り場でも朝一は最大のチャンス。特に久美浜はその傾向が顕著。集中する。しかし穂先はピクリともしない。その後も牡蠣やボケを落とし込むが気配はない。カセの背後の筏に上がって筏の中も釣るが反応はない。「やばいぞ、これは・・・。どうもチヌがいそうにないし。たぶん、寄ってくる気配もない。このままでは、朝の時合いも逃してしまう。」カセを中心に遠投も行うが全くダメ。ちょっと危険だったが筏の竹の上を歩いて探ることにした。
一番端まで竿とタモを持って移動し、牡蠣を落とし込んだ。反応無し。ゆっくり引き上げて今度は向こうの筏の際まで投げた。すると着底後すぐにコンコンスーと穂先が入った。即アワセ。「うん?」少し巻くと魚の感触。頭を振っている。「チヌや!」緊張が走る。必死で巻く。「うん・・・、軽い。」頭は振っているが、びんびんするだけで、簡単に巻ける。やがて姿を見せたのは30p強のチヌだった。7時半のことだった。
「ちいさ。でもいるところに投げれば食うんや。ということはますますカセ周辺は厳しいということか。」その後もしばらくは、筏上を綱渡りして餌を投げるが二度とアタリはなかった。8時半頃だったか、宮崎沖のカセから釣り人が移ってこられた。向こうもアタリが皆無らしい。何の変化もなく10時になった。もう朝の時合いはとっくに終わっている。「久美浜状態」を思い出した。粘ってもダメだと思った。そこに見回りに船頭さんがこられたので、場所替えを頼んでみると、快く移動させてくれた。今度は西中渡船の大筏が見える、以前もよく釣りをしたエリアのカセだった。
ここでもまずは牡蠣の落とし込み。期待薄だが、最初が勝負と思って穂先を見つめた。だんだんと筏下に餌が流れる。するとコツというアタリがでた。「お!」当日の状況からすると餌取りはいなかったので、チヌの可能性は十分あった。はっきりしたアタリはでないが、かすかに触っている。一気に集中力を上げる。「・・・、とられた・・・。うーーーん。」すぐに牡蠣を落とし込む。着底後、すぐにコンとまたあたる。しかし、その一撃で餌がとられる。「今のはチヌらしくなかったような・・・。」そして、アタリはなくなった。また何をやっても一切あたらない時間が経過した。次に変化がでたのは11時50分だった。小さくコンと当たった後、チョンチョンさわり、そして穂先がクッとお辞儀した。「ここやーー!」スカ。「うーーーん、なんで。」吉田ではずしたのと同じようなよいアタリだった。「2時間かけてアタリか。納竿は4時。あと1,2回あたりあるかも。」そう思って、団子を使いながら打ち返しを続けた。天気は午前中は曇っていたが、よく晴れてきた。14時頃からは風も止み、絶好の釣り日和になった。でも、その後アタリはなかった。一度もなかった。疲れた。
久しぶりの久美浜は微笑んではくれなかったが、渡船屋さんは親切だし、いろいろサービスしてくれることもわかった。いざわ渡船さんの釣り場も知ることができた。もし今度来る機会があれば、もう少し釣り場にあわせた作戦を考えてのぞめると思った。特に今回ははりきって餌を買いすぎてしまった。
16時15分、釣り場を後にした。帰り道、窓を開けて走った。風が気持ちよかった。以前に通った田舎の道を走っていると桜が目に飛び込んできた。桜はただ美しいだけでない。冬に耐え、一気に咲き、散っていく。その咲き方が人を更に引きつけている部分もあると思う。「美しさと心があるから、桜は日本人に愛されるのかもしれない。」そんなことを考えながら、久美浜から但東町を抜ける山道に入った。どの山里の村でも桜は目立つ場所に咲いていた。満開だった。しかしそこに集まる人影はなかった。平日なのだから当然といえばそうかもしれない。でも、ほんの短い桜の季節を楽しむ余裕がある社会であってもいいのではないかと思う。「おれも忙しいのだから、お前も同じくらいは働け。相手はこんだけやっているから、こっちはもっとやらねば負ける。」この競争論理の繰り返しが、生活から余裕を奪い、仕事を苦痛なものにする。「でも仕方ないか・・・。仕事とはそういうものか・・・。昔から生きることは大変なことだし、余裕を求めること自体甘いのか・・・。」しばらくまた車を走らせた。携帯をとって電話をかけた。かつての一番の釣友に。大病を患い、長期入院している友に。ずっと気になっていたのに電話できなかった。久美浜が勇気をくれた。
釣果:1枚(33p)